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腸内フローラを整えるメリットと食生活や運動で改善する方法

腸内には、100兆個を超える多様な細菌が生息しており、これらの細菌群は「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内フローラは、免疫機能や肌の健康、自律神経の安定などにも深く関与しており、全身の健康維持に欠かせない存在です。腸内環境の乱れは、便秘や下痢、肌荒れ、体調不良などの原因となることもあります。

当記事では、腸内フローラを整えることで得られるメリットや、日々の食事・生活習慣の中で実践できる、腸内フローラを整える方法について解説します。

 

1.腸内フローラを整えるメリット

腸内フローラとは、腸内に棲む多種多様な細菌の集まりを指します。細菌は種類ごとに集団をつくり、腸の内壁に広がって存在しています。この細菌群は個人ごとに異なり、生後まもなく形成され、その後の体調や免疫に大きな影響を及ぼします。

腸内フローラが乱れると、便秘や下痢、肌荒れ、免疫力の低下など、全身にさまざまな不調が現れることがあるため、腸内環境を整えることは健康維持において重要です。

ここからは、腸内フローラを整えることで得られる主なメリットを解説します。

 

1-1.便秘や下痢の改善

腸内フローラを整えることにより、便秘や下痢といった排便リズムの乱れをサポートする働きがあるとされています。腸内には善玉菌と悪玉菌が共存していますが、善玉菌が優勢な状態では腸のぜん動運動が促され、便通がスムーズになります。

便秘が続くと腸内に便が停滞し悪玉菌が優勢になって腐敗物質を増やすため、腸内環境がさらに悪化します。一方、乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌が増えると、悪玉菌の活動が抑えられ、有害物質の生成を防げます。結果的に腸の健康が保たれ、排便リズムが整うことで便秘や下痢の予防・改善が期待できます。

出典:尾崎隼人ほか 慢性便秘症の治療 各論(便秘症と腸内フローラ)日本大腸肛門病会誌 第72巻10号0609頁 p.609-614 2019

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1-2.免疫力の維持・向上

免疫機能の維持と調整にも、腸内フローラは関与しています。善玉菌の一部は、その菌体成分が免疫機能を刺激することが知られており、腸内環境が整うことで健康的な免疫応答が保たれやすくなります。

ビフィズス菌などの善玉菌は、腸内の悪玉菌の増殖を抑える働きもあり、腸内環境の浄化や病原菌の侵入防止に役立つとされています。このように、腸内フローラの健全なバランスは、免疫力の維持に寄与する重要な要素です。

出典:光岡知足 腸内フローラと生体 ビフィズス 1巻 1号 p.13-24 1987

出典:種本俊ほか 腸内細菌叢と免疫の関わり 日本臨床免疫学会会誌 vol.40 No.6 p.408-415 2017

 

1-3.アレルギー症状の緩和

腸内フローラのバランスは、アレルギー症状の発現や程度にも影響を及ぼすと考えられています。中でも、ビフィズス菌は腸内の悪玉菌の増殖を抑える働きがあり、腸内環境を整えることが免疫バランスの調整に関係するという報告があります。

研究では、ビフィズス菌B. longum BB536を継続的に摂取した人は、花粉の飛散時期においても鼻の症状や日常生活への支障が軽減される傾向がみられました。腸内フローラを整えることで、アレルギーに関連する過剰な免疫反応が抑えられやすくなるとされています。

出典:榎本雅夫ほか ビフィズス菌によるアレルギーの抑制 耳鼻免疫アレルギー vol.33 No.4 p.231-234 2015

 

1-4.肌の状態の改善

腸内フローラの乱れは、肌のくすみや乾燥などの皮膚状態に影響を与えることがあると言われています。腸内で悪玉菌が優勢になるとフェノールやパラクレゾールなどの有害物質が発生し、血流に乗って皮膚に蓄積されることで、角化異常や水分量の低下を招く可能性があると報告されています。

一方で、腸内フローラを整えることは、これらの物質の血中濃度を下げ、皮膚の健やかなターンオーバーやうるおいの維持に関係するとされています。腸内環境の良好な状態は、肌の健康を保つ一因と考えられています。

出典:飯塚量子 株式会社ヤクルト本社 中央研究所 腸内細菌が皮膚生理に及ぼす影響 p.105-106 2011

 

1-5.自律神経の乱れの調整

腸内フローラと脳は密接に関係しており、これを「脳-腸相関」または「腸-脳相関」と呼びます。ストレスを感じると脳からの指令が腸に伝わり、自律神経や内分泌系に悪い影響を与えることが知られています。一方で、腸内環境が整うことで、こうした反応が緩やかになり、心身のバランスを保ちやすくなる可能性があると考えられています。

アスリートにおいては腸内フローラの多様性が高く、外的ストレスに適応しやすい体内環境が整っているとの報告もあります。腸内フローラの健全な状態は、自律神経の働きやストレス応答の安定にもつながるとされています。

出典:宮川健ほか 腸内フローラと健康 川崎医療福祉学会誌 Vol.30 No.1 p.15-35 2020

 

2.腸内フローラを食生活で改善する方法

腸内フローラを整えるには、日々の食生活が大きく影響します。動物性タンパク質や脂質を過剰に摂取するような偏った食事は、悪玉菌を増やして腸内環境の乱れを招く原因となるため注意が必要です。

以下からは、腸内フローラの改善に役立つ具体的な食品について紹介します。

 

2-1.オリゴ糖を取り入れる

オリゴ糖は、2~10個の単糖が結合した少糖類です。中でも難消化性オリゴ糖は小腸で消化されにくく、腸内のビフィズス菌など善玉菌の栄養源となり、腸内環境の改善に役立つとされているオリゴ糖です。

ビフィズス菌は、腸内のpHを酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑える働きがあるとされており、便通のサポートや免疫機能との関係でも注目されています。オリゴ糖はこうした善玉菌の増殖を促すことから、腸内フローラを整える食品成分として広く利用されています。

出典:菅原正義 オリゴ糖の特性と生理効果 ビフィズス 7巻 1号 p.1-12 1993

 

2-2.発酵食品を食べる

発酵食品は、腸内フローラを整える上で重要な役割を果たすとされています。納豆やぬか漬け、味噌、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌や納豆菌は、腸内の善玉菌をサポートする働きを持った食品です。乳酸菌は腸内を弱酸性にし、悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。
また納豆菌は腸内で善玉菌の活動を助ける働きがあり、腸内環境の改善に寄与します。

出典:農林水産省「和食育」

継続的に発酵食品を摂取することが、善玉菌の優勢な腸内環境を維持する一因となり、腸内フローラの健全なバランスにつながると考えられています。

 

2-3.食物繊維を摂取する

食物繊維は、小腸で消化・吸収されずに大腸まで届く性質を持つ食品成分で、腸内環境の改善に役立つとされています。特にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌に利用されやすく、善玉菌の割合を高めることで、腸内フローラを整える働きが期待されます。

しかし、日本人の食物繊維摂取量は年々減少しており、平均摂取量は目標量を大きく下回っています。腸内環境の維持のためにも、穀類や豆類、野菜、きのこ類などから得られる食物繊維の摂取量を、1日プラス3~4g増やすことを意識するのがおすすめです。

出典:厚生労働省「食物繊維の必要性と健康」

 

3.腸内フローラを整えるために心がけたいこと

腸内フローラを整えるには食生活の改善だけでなく、日々の生活習慣全体を見直すことが大切です。適度な運動や十分な睡眠、ストレスをため込まない過ごし方も、腸内環境に良い影響を与えると考えられています。

以下からは、腸内フローラを整えるために意識したい生活習慣について紹介します。

 

3-1.生活習慣を整える

腸内フローラを整えるには、日々の生活習慣を見直すことが重要です。朝食を含めた1日3食を欠かさずにとると、腸の活動リズムが整いやすくなるとされています。また、十分な睡眠をとることで自律神経のバランスを保ち、腸内環境にも良い影響を与えると考えられています。

飲酒や喫煙の習慣は腸内細菌のバランスを乱す要因のため、飲酒や喫煙を控えることも腸内環境の維持には大切です。健康的な生活リズムを継続することが、腸内フローラを良好な状態に保つ基本となります。

 

3-2.運動習慣をつける

適度な運動を日常的に取り入れることも、腸内フローラを整えるのに有効です。ウォーキングやストレッチなどの軽い有酸素運動には腸のぜん動運動を促す効果があり、便通の改善にもつながると言われています。

また、運動により自律神経が整うことで、腸内環境が乱れにくくなると考えられています。過度な運動は避け、無理のない範囲で運動を継続するよう心がけましょう。

 

3-3.ストレスを溜めないようにする

腸内フローラは、心の状態にも影響を受けることが知られています。過度なストレスは自律神経の乱れを引き起こし、腸の働きに悪影響を及ぼすことがあります。特にストレスによって交感神経が優位になると腸のぜん動運動が抑制され、腸内環境が乱れやすくなると考えられているため注意が必要です。

そのため、腸内フローラを整えるには、日常の中でストレスを発散する工夫が欠かせません。十分な休息をとる、趣味に打ち込む、リラックスできる時間を確保するなど、心のゆとりを意識することが腸内環境の安定にもつながります。

 

まとめ

腸内フローラは、腸内に生息する多種多様な細菌の集まりであり、消化・吸収のみならず、免疫調整、皮膚の健康、自律神経の安定など、全身の健康維持に深く関与しています。善玉菌が優勢な腸内環境を整えることで、便通の改善や免疫力の維持、アレルギー症状の緩和、肌の状態向上などが期待されます。

腸内フローラを整えるには、オリゴ糖や発酵食品、食物繊維の摂取といった食生活の見直しに加え、規則正しい生活習慣、適度な運動、ストレスの管理も大切です。自分にとって継続しやすい方法を毎日の生活に取り入れましょう。

<プロフィール>
加勢田 千尋
一般社団法人日本腸内環境食育推進協会代表理事、管理栄養士。病院・企業にて7000人以上の栄養指導・食事アドバイスを行う。独立後、腸に特化した食育講座『腸の学校®』を監修•運営する。自身も幼い頃からアトピーや腸の不調に悩まされ続け、腸内環境を整える食事法により便秘やアトピーなどの不調を3カ月で卒業。 現在は薬やサプリメントに頼らないずぼら腸活を伝えている。